買いまくり古本市 -子供に戻った日(後編)-
某市(仮にA市とする)の図書館で古本市をやっていると知った私は、早速「目白」駅に向かった。
そして到着するや、切符を買うべくJR路線地図を見た。
その時!!
重大な事に気づいたのであった。
A市ってどこ....。
田舎者の悲しさ、A市というのは東京にあることは知っていたが、どこにあるのかわからない。
(もちろんA市の図書館の場所なんてわかるはずもない!!)
路線地図を丹念に見ていったがA駅が見つからない!(実はこれは不幸中の幸いであった)
困った挙げ句、駅前にある本屋の地図コーナーで図書館の場所を探す事にした(本屋さんすみません)。
まずわかったこと。
A駅はJRではなく私鉄の駅だった。
もう一つわかったこと。
目的の図書館の最寄り駅はA駅ではなくB駅だった。
15:00
携帯で確認した結果、目的のB駅まで一番早く(そして安く)行くには乗り換え3回!
ちょっと(いやかなり)うんざりしたが、珍しく素直に従った。
なにせこの時点での不安要素は、古本市の終了時間。
たしかに明日(5/21)もやる事は聞いていた。
しかし私に明日はない!!(子供と遊ぶ約束があったので)
着いたら終っていたという最悪ケースも考えたが、そうなったら図書館でも見学して帰ろうと考えた。
15:30
電車からふと外をの景色を見た。
心なしか「この辺」だけ黒い雲に覆われている気がした。
別の方角を見るとやはり黒い雲に覆われていた。
心の中は嫌な予感に覆われていた。
遠くの方は気持ちいい程の青空なのに...。
15:45
B駅に到着!
外は大雨!
しかも大風!!
気持ちいい程に悪い予感が当たった。
(あとで知ったのだが、私が向かった辺りでは「暴風・大雨警報」がでていたらしい)
一瞬ためらったが、駅から図書館までは真っすぐ一本道を行くだけ。
ということで悪天候の中を突き進むための準備をした。
1. 鞄の中の本をビニール袋に入れた。
幸運(?)にも、キオスクのビニール袋があったので2重にして鞄の奥に入れた。
2.常時持ち歩いている傘を取り出した。
ちなみにこれは古本巡り用の七つ道具の一つ。
この傘のスゴい所は軽量短小。
折り畳んだ状態が、京極夏彦「文庫版 魍魎の函」よりも小さい!
もちろん、重さも軽い!
3.行く覚悟を決めた。
かなり酷い天候なのでずぶぬれ必死。
また体調を考えると止めた方がよいという考えもフッと頭をかすめた。
しかしここで帰ってはあまりにも「つまらない」。
ということで、出発!
15:55
図書館に到着。
予想以上にずぶぬれ。
胸から下は濡れていない所がない位。
もちろん鞄も。
さて図書館に入ったはよいが、どこにも古本市をやっている気配がない!
そこでちょうど近くにいた図書館員に尋ねたところ、図書館の隣の市民会館ということがわかった。
よかった!と思い少し喜びの声をもらしたら、近くで新聞を読んでいたおじさんに聞かれて笑われた...。
ちょっとムッときたので、
「こっちは決死の思いで古本買いにきたんだ!笑われる筋合いはない!!」
と心の中で毒づいた後、市民会館に向かった。
16:00
そこには夢にまで見た(嘘)、古本がたくさん並んでいた!
最初に目に飛び込んだのは文庫本。
奥にはハードカバーや漫画、雑誌等があった。
しかし終了時間は5時。
ゆっくり見ている暇はないので、文庫本だけに集中する事にした。
ちなみに気になっていた本の値段は...
文庫・新書 1冊 100円
.........中略........
20冊 350円
なるほど、1冊あたりの値段は確かに安くなっている。
20冊買っても350円ということで、買う数は気にしないことに決めた。
16:20
抱えた文庫の数が、並んだ文庫を探すのに邪魔なくらいになってきた。
しょうがないので、抱えた本を隅に置かせて欲しいと会計らしき人にお願いした。
すると
「他の人に持ってかれてもいいのならどうぞ。」
と挑発するような答えがかえってきた。
予想外の答えに少しビックリしたが、
「こっちは決死の思いで古本買いにきたんだ!持っていけるなら持っていってみろ!!」
と心の中で毒づいて文庫の山に再び戻った。
それにしても安いし、しかも本の状態が思ったよりいいものが多い。
ふと子供の頃に行った果物狩りを思い出した。
さしずめ今日は古本狩りだなぁ、なんて思いつつ目は本に。
16:30
「5時で終了します!明日も古本市はありますのでご理解ください。」
との声がどこかから聞こえたが気にしないで目は本に。
16:45
「5時まであと15分です。明日も古本市はありますので....」
との声とともに、
「ここにあるのは誰の本?」
との声が。
振り向くと主催者らしき人が一人。
すると私が置いて良いか尋ねた人が「あの人です」(と言っているかわからないが)
こちらの方を向いて話している。
さすがにちょっと気がとがめたので、買うつもりの本から欲しい順に20冊選んでとりあえず会計。
16:50
「5時まであと10分です。明日も古本市は....」
そんなことは何度も言われなくともわかっている!
「こっちは決死の思いで古本買いにきたんだ!(以下略)」
と心の中で毒づきながらも、しょうがないので(!)手に持っている文庫を抱えて、買うつもりの文庫の所に戻った。
数えると全部で19冊。
あと一冊欲しいなぁと思い、再び文庫の山に再び戻った。
16:55
「5時まであと5分です。明日も古本市は....」
そんなに5時で帰りたいなら帰ってくれ!
「こっちは決死の(以下略)」
と心の中で毒づいたが、これ!という本がない。
楽しかった古本狩りも終りを告げた。
「ああ、噂の人がやっときたわ。」
云々....
と会計の人たちが私を見て笑うので、私もヨン様ばりの笑顔で本を渡した。
「読んだら来年、持ってきてくださいね。」
という言葉をもらいつつ古本市の場所を離れた。
17:10
ベンチに座って一休み。
今回の成果は文庫(一部新書含む)を39冊、一袋。690円也。
車もないのにこんなに買ったのは初めてだった。
重さもかなりあった。
はたして自宅までの長い道のりを無事に乗り切る事が出来るか不安がよぎった。
この時、なぜか昔読んだどこかの原住民の話が頭に浮かんだ。
その原住民はサルを捕まえるために木に穴を穿つのである。
その穴は入り口付近は指をすぼめて伸ばさないと入らないくらいの大きさ。
そしてそこを通過すると、手のひらをある程度、広げられるくらいの大きさになっている。
反対側に抜ける出口はない。
その穴の中に、サルの好きな木の実などを入れておく。
さてその穴にサルが手を突っ込む。
サルは中の木の実が欲しいので握って取り出そうとするが手が抜けない。
欲深なサルは原住民につかまってしまう。
17:30
傘をさしながら袋を持ってB駅へ向かった。
この頃にはもう小雨になっていた。
重いので右手、左手、右手...と持ち替えながら歩いていると、突然ブチっと音を立てて袋の取っ手がとれた。
修復不可能な状態。
欲深なサルは自宅まで袋をお嬢様抱っこ(別名、ハトヤ状態)で帰らないといけないハメになった。
19:30
最寄り駅についたとたん、お腹の虫の我慢も限界にきたようなので、夕食を食べる事にした。
「今日は勝った、勝った(何に?)」
ということで、これまでの疲れも忘れたかのように一人浮かれてカツ丼を注文。
食べている間も買った本が気になってしょうがない。
だからいつにもまして猛スピードでご飯を喰らう(!)
そして食べ終わるや否やすぐさま会計に。
会計には若くて可愛いお姉さんがいた。
そのお姉さん、私の顔を見るなり微笑みながら小声で一言。
「ご飯粒が...ほっぺたに」
最後の最後まで子供の一日でした。
おしまい。