本楽家 ( ほんがくか ) 通信

本にまつわるあれこれを楽しむ、日本本楽家協会の活動報告です。

20軒目 長野県某所 出るに出られない古本屋


 久しぶりに怖い思いをした。

 場所は神州、いや信州のとある市。
 駅前通りから少し外れたところにある古本屋。

 着いた時にはすでに20時をまわっていた。
 さすがにこの時期になると少し肌寒い。
 かいた汗が徐々にひいてきて、さらに寒さが増してきた。
 行ったお店がことごとく「潰れて」いたこともあり、疲労もピークに達しようとしていた。

 だから古本屋の看板が見えた時にはホッとした。
 期待に胸膨らませ、早速入ろうと中を覗いた瞬間!

 できればもう閉店でいて欲しい...そんな古本屋だった。

 でもドアは開いてしまった。
 店内をざっと見渡す。
 お店の人はいないようだ。

 店を出るなら今だ!

 と、訪問を告げるメロディがなった。
 同時に上の方から足速に階段を降りて来る音が!!

 しかしまだ逃げられる!!

 だが体は動かない。
 店主登場...チャンスを逸した。 

 観念して本棚を見てゆくが欲しい本がまったくない!
 あせりは汗を呼び、寒さを暑さに変えていった。

 それにしても....
 
 「わきが」の本がやたらと目につく。

 一坪程度の店内に1,2,・・・5冊はあった。
 なんでこんなにあるんだろう?

 ゴクリ!

 店主が喉を鳴らしたのだ。
 私と店主の間に緊張感が漂っていることがわかった。

 一刻も早くここを出たい!

 でも1冊でもいいから本を買わなくてはいけない。
 そして店主と会話するのだ!
 近所の潰れたお店やまだ健在のお店について。

 これは使命である!
 課せられた義務である!
 ライフワークである!

 混乱してきた...。
 なぜだがこの状況が楽しくなってきた。

 そういえばこんな状態のことをマラソンではランナーズ・ハイといったはず。
 登山家ならばクライマーズ・ハイ
 ならばホンガッカーズ・ハイと呼ぼう!

 欲しい本を探すのは諦めて、今の状況に相応しい本を探してみよう!!
 体がさらに熱くなってきて、脇からも汗が出てきた。
 でも「わきが」の本は買わない。

 お店に入って約30分後...やっと見つけた。
 
 「恐怖通信」オーガスト・ダーレス他 (河出文庫)

 私にとっては200円は少々高いがガマン。
 聞きたかった話も半分と聞けず、そそくさとお店を出た。

 ふう、外の風が心地よい。
 足も棒のようになってきたので、もう帰ろう!
 意を決して駅に向かうのだった...。